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――かどわたりするときはいっしょにとぼうね。やくそくだよ。
門戸渡り――セレニティの雛鳥にとって大きな意味を持つその時が、もうすぐ二人に訪れる。
アタラの肩越しに海の鳥居と島の影を見つめる。鳥籠への帰巣本能はもうない。オトは自らの意思で歌う場所を決めた。だがどれだけ外の世界を知ろうと、好きな場所で自由を謳歌しようと……羽耳を持って生まれた者の責務は、果たされなければならない。
「すごく自分勝手なことを言ってるのはわかってる。でも……」
「だめじゃないよ」
「……本当に?」
「うん。アタラと一緒に飛ぶ。約束したもの」
蔑視に罵倒、暴力。冷たく非道な鳥籠の中で、この約束が生きる希望だったことは間違いない。だが今は、どうしても脳裏に白金と群青色がちらつくのだ。
「だからそれまで時間をちょうだい。私、どうしてもここで歌いたいの」
生まれて初めて我がままを言った。許されるかわからないけれど、今はこの気持ちに素直に生きたい。ノアの隣でたくさんの未知を知って、もっともっと自分の目で世界を見てみたい。残された時間が許す限り。
「……わかった、ありがとう」
惜しむように抱きすくめていたアタラが抱擁を解く。帰る場所は違えど、向かう場所は同じなのだと互いに言い聞かせた。雛鳥の最後の役目を果たすその時までは、自分たちの心に従って生きよう、と。
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