片羽のオトは愛を歌う

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片羽のオトは愛を歌う

「サヨもアタラ様とユミばあに会いたかったのに!」  むくれる幼鳥が書類の塔を運んで来た。これで三つ目だ。「領事様がお仕事溜めちゃうから! もぉ!」と机に叩きつけられ、不機嫌な塔が揺れる。  サヨには悪いが、今はオトの喉を治す薬を調達することが最優先だ。こんなところで書類に埋もれているわけにはいかない。そもそも仕事を三日放棄したくらいでこの様とは。もっと部下へ効率的に仕事を押しつけて……失礼、割り振ってやる。見えない角を生やしたノアは「島主殿と面談があるんだった」と思いついたように言い放ち、執務室の窓から華麗に飛び出した。  監獄から逃げた先は賑やかな港。リュクスの行商人に薬の手配を依頼したのだが。 「薬は輸入禁止物です。いくらうちでも手配できませんよ。商売ができなくなっちまう」 「領事が頼んでいるのにか?」 「領事ならなおさらだめでしょうが!」  ド正論を食らって口がへの字に曲がる。貿易条約を改定するか、島に自生する代用品で調薬するしかない。どちらがより手早いか思案しているうちに日が傾いてしまった。仕方なく長い白亜の階段を上り帰路へ着く。  ふと顔を上げると、中段の踊り場に片羽の雛鳥が立っていた。夕焼けを纏う彼女の姿を見て、残りの階段を一気に駆け上る。
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