片羽のオトは愛を歌う

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「オト、どうし……」  間近で見たその姿に、驚きで言葉が詰まる。  それまで頑なに施しを受けなかった彼女が、青藍色(せいらんいろ)に大きな牡丹がふんだんに描かれた美しい着物を着ていたのだ。  淡い紅を差した唇が照れくさそうに弧を描く。その全てが花咲くように可憐で、目を奪われた。 「ユミさんが昔着ていた着物を譲ってくださったんです。私が持っているものより派手だろうって。お化粧はハンナさんが。何だか自分じゃないみたいです。……でも私は、ノア様からいただいた着物だと思っています」 「それは、どういう……」  ノアが勝手に用意した着物は全て返されたはず。戸惑うノアとの距離を、オトの草履が一歩ずつ踏みしめた。 「ノア様がユミさんに取り次いでくださったから、この着物をいただくことができました。だからこれはノア様が繋いでくださった(えにし)です」 「大袈裟じゃないか? 俺はただ楽器の修理を依頼しただけで――」 「それでも。そのお気持ちが、私はとても嬉しいのです。ノア様が私の歌ではなく、歌おうとする気持ちを必要としてくれたように……」  怯えた表情は影を潜め、思いの丈を一つずつ確実に吐露していく。それまでの彼女とはまるで見違えるようだ。
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