片羽のオトは愛を歌う

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「ノア様」  最後の一歩を踏み出して、憧れの群青色を真正面で見つめる。 「私を鳥籠から連れ出してくださって、ありがとうございました」  引け目を感じてずっと言えなかった言葉。自分のことで精いっぱいで、彼の心根に向き合うことができなかった。だがもう逃げない。逃げたくない。 「外の世界を見せてくださったことも、無知な私にたくさんのことを教えてくださったことも、ピアノの伴奏も……あなたがしてくださったことの全てが、私はこんなにも嬉しくて堪らないのです。だから……」  こんなに喋ったのはいつぶりだろう。それくらい溢れる想いを言葉にすることに必死だった。一字一句、全てが伝わってほしいから。少しも取りこぼしてほしくないから。 「――私、ここで歌いたいです」  自分の目で見て、知って、自分の意志で歌う場所を決めた。ノアがそうさせてくれた。オトの世界は、間違いなく変わったのだ。 「大陸人の皆さんのために歌いたいんです。どんなに醜い声でも一生懸命歌います。だから……おそばに置いていただけませんか……?」  一世一代の大願をぶつけて、胸の前で組んだ手が震えた。拒絶されたくない。必要だと言ってほしい。こんなに狂おしい感情は今まで抱いたことがない。
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