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愛し愛される者たち
大陸人のために命を賭して歌った最後の献上は、その献身から広く愛されたと言われている。
中でも彼女をいっとう寵愛したのが当時の領事であることは、言わずもがな――……。
∞
総領事館は左右対称な造りをしている。理路整然と並ぶ扉はまるで鏡写しのよう。端的に言ってしまえば、ちょっとした迷路だ。
「また迷っちゃた……」
人気のない廊下でオトが立ち呆ける。
仕方なく来た道を引き返そうとしたら、見覚えのある赤毛が廊下を横切るのが見えた。あれは間違いなくハンナだ。
道を聞こうと後を追うが、廊下の突き当りに彼女の姿はなかった。その代わり、一室の扉がわずかに開いている。中にいるのだろうか。ドアノブに指をかける直前、室内からガタッと物音が聞こえた。
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