愛し愛される者たち

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「――ん……ハンナッ……」  熱っぽい男の声にぎくりと身体が強張る。しかもこれはノアの親友、アルベルトではないか。一度聞いた声や音を忘れない羽耳がぴくぴくとはためく。  見てはいけないような気がしたが、それに勝ったのが好奇心。オトは意外と知りたがりだ。扉の隙間から生唾を飲み込んで覗いた先に、案の定の二人がいた。ただ、秘書官の清廉な青の制服を纏った背中を本棚に押し当て、なし崩すように(もた)れる二人の距離はとても近い。近いと言うかくっついている。主に、唇が――。 (……えっ???)  大量の疑問符を浮かべるオトをよそに、二人の逢瀬はどんどん情熱的なものへと変わっていく。  ちゅ、と唇同士が吸いつく音だったり、何度も啄むほんのわずかな合間に漏れる吐息だったり。敏感な羽耳がここぞとばかりに拾い集め、オトの頬は真っ赤に茹で上がった。 「ん、ぁっ……アルベルト様、こんなところでは、だめっ……」  そうだそうだ、ここは総領事館の一室で、窓からは太陽の光が差し込んでいるのに。 「すまない……だが君がせっかくクレセンティアまで来てくれたのに、こうして触れることすらままならないなんて……こんなの生殺しだ」  編み上げた赤毛の柔らかな感触を堪能しながら耳元で熱っぽく囁く。ダブルボタンの一番上を解き、露わになった白い首筋へ顔を埋めた。声量を押さえた声が鼻を抜ける。分刻みの予定に毎日文句を言うノアを暴言と暴力(実力行使)で黙らせている絶対零度の声色とはまるで違う。
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