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片羽の行方
「――で、俺のところに来たと」
夜中に扉を叩いてやってきた浴衣姿のオトが緊張気味にうなずく。
ノアは前髪を掻きむしり、理性を保つことに努めた。普通の男女なら流れに身を任せることもできるが、相手は雛鳥だ。純潔を失えば神通力を失って夢喰を祓えなくなる。
(領事と献上が寝室を共にした記録は本物だが、まさか先任たちは全員修行僧なのか?)
煩悩で気が遠くなったこめかみを指で押さえる。とりあえず中に入れたのはいいが、さて、これからどうしよう。
「やっぱり、私では献上のお役目を果たせませんか……?」
歓迎されている雰囲気ではないことを察したオトが自信なさげにうつむく。彼女が考えているお役目とは、魔除けの置物のようなもの。一晩男の本能との対話に徹しなければならないノアの苦行など知る由もない。
だがシュンとした羽耳を見て、じくじくと罪悪感に蝕まれた。このまま帰したらきっと酷く傷つけてしまう。
「そんなことない。オトが来てくれて助かった」
純粋無垢な小鳥を傷つけるくらいなら、修行僧にでも仙人にでもなろう。今まさに健全な共寝の火蓋が切って落とされた。
「だが毎日は大変だから、三日に一度くらいにしような」
「? わかりました」
さっそく弱気な突きが牽制する。何のことかわかっていないオトが可愛くて理性の消耗が著しい。果たして朝までもつのか、もう不安になってきた。
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