片羽の行方

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 ∞  ベッドに入ってもギンギンに冴え渡った視界で隣を見やる。天井の模様を眺める金色の瞳に間接照明の淡い光が揺れる。眠れないのはお互い様らしい。  思えば、二人きりでゆっくりと時間を過ごすのは初めてだ。せっかくなら有効活用してみるべきか。そこでノアは、ずっと抱いていた疑問をぶつけてみることにした。 「オト、聞いてもいいか?」 「何でしょう?」 「――左の羽耳は、どうしたんだ?」  失った羽耳を指摘され、華奢な身体が途端に強張ったのがわかる。すかさず布団の下で一回り小さな手を握った。 「言いたくないなら言わなくていい。君を傷つけたいわけじゃないんだ」 「いえ……ノア様にはお伝えしておきたいです」  もぞりと身体を動かし、二人はひと一人分の空間を保ったまま向かい合う。そしてぽつりぽつりと過去を語り出した。 「私の生まれは本島の街から外れた小さな村です。自然の中で暮らすちょっとした集落でした。島にはそういう村が他にもたくさんあります」  クレセンティアを構成するのはカージュの小島と総領事館や島主の屋敷が置かれた本島の首都、そして点在する小さな村々。本島は人の足で休みなく十日間ほど歩き続ければ一周できる。そのほとんどを自然が占めているため、人口は十万人にも満たない。
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