片羽の行方

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「羽耳を持って生まれた赤子は、離乳してすぐ供物と一緒にカージュへ送られます。でも私は十歳になるまで村で隠匿されていました」 「隠匿?」 「私が生まれた年は凶作で、供物を用意することができなかったんです。それとは別に、毎年カージュには作物や織物などを納めないといけません。苦境に立たされた村の長は、私を村のためだけに歌わせようとしました」  神獣の加護で悪夢から守護する見返りに供物を提供させる。カージュにとっては必要な物資に違いないが、問答無用の取り立ては無理な年貢と同じだ。  運よく雛鳥が生まれた村は、これを好機と考えた。自分たちだけの歌姫を育て上げれば、カージュに依存することなく安眠を得られる。密かに洞穴(ほらあな)の中に祭壇を作り、そこへ母親から取り上げた幼いオトを放り込んだ。鳴け、(さえず)れ、歌えと強要して。 「毎晩村人たちが集まって、夢喰(むし)避けに歌を聴きに来るんです。歌わないなんてことは許されませんでした。いえ、むしろ歌うことしか許されなくて……」  光の当たらない洞穴(ほらあな)の奥で両足首を枷に繋がれ、外の日差しに目を細めていた。たまに聞こえる子どもたちのはしゃぎ声に焦がれ、鳥の鳴き声に憧れ。
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