純潔の誓い

1/6
前へ
/148ページ
次へ

純潔の誓い

 形の良い唇が薄く笑みを浮かべ、前髪の上から自分の額を指で二回叩く。何が起きるのかと見つめるオトの目の前で、美しい金糸が毛先から色を変えた。 「生物の姿を変容させる神獣ニアの力、その応用だ。こうでもしないと、俺は大陸で外を歩くことすらできない」  そう言って自嘲気味に笑うノアは、あっという間に漆黒の髪に変わった。夢喰(むし)(はね)のようにどこまでも深い黒。驚きで瞬きを繰り返すオトに、変わらぬ美貌が微笑んだ。 「この姿を君は醜いと思うか?」 「……! そんなことないです! すごく、綺麗で……」  見惚れてしまった。ただそれだけ。醜いだなんて少しも思わない。 「だが、大陸で黒髪は昔から忌み子の証なんだ。それに俺の家系に黒髪はいなかった。嫁いできた母の家にも。母は不貞を疑われ、俺たち母子は一族から徹底的に冷遇された」 「そんな……」  ただ、黒髪で生まれたという理由だけで。悲惨な境遇にオトは言葉を失う。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加