純潔の誓い

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「五歳になった頃、ニアの力が発現して事態は更に悪化した。セレニティと同じ神獣の名を冠するが、ニアはその禍々しい見た目から魔獣とも言われている。黒髪はニアの加護の証だったんだ。君の羽耳のようなものだな。魔獣に呪われた子として俺は塔へ幽閉され――……その間に、母は心身を患って息を引き取った」  淡々と語られる痛ましい話に、オトの瞳から涙が零れる。  生まれた時から輝かしい人なのかと思っていた。いつも力強くオトを導いてくれる優しくて強い人。こんなに物悲しい過去があったなんて、思いもしなかった。  浴衣の襟から零れた指輪を見つけ、黒髪の隙間から青い瞳が細まる。面影を探るように、追憶の彼方へ行ってしまった最愛の人を想った。 「母の形見であるこの指輪を見るたびに思うんだ。母は本当に虐げられる必要があったのか。俺はなぜ忌み子と呼ばれなければならなかったのか。その答えを見つけるために神獣の研究に打ち込んでいたら、今はクレセンティアの領事をやっている。不思議な(えにし)だな」 「お母様の指輪……」 「返さなくていい。大切な物だからこそ、これからもオトに持っていてほしい」  涙で濡れた頬を拭う指先は、虐げられる痛みを知っている。だから母親と同じ噛み痕が残るオトの唇を見て、胸を掻き立てられた。
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