純潔の誓い

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「カージュの書物には、ね、粘液の交換はだめだと書かれていて……」 「どんな本だ、それ。他人が書いた書物なんて主観だらけで当てにならないぞ。……ああ、そうだ」  一度ベッドから降りたノアは、備え付けの箪笥(チェスト)の一番下の引き出しを開けた。取り出したのは予備の麗糸窓掛(レースカーテン)。向こう側までしっかり見えるほど透き通っている。細かな刺繍が施されたそれを、戸惑うオトの頭からふわりと被せた。まるで純潔を示す大陸の花嫁が纏う垂れ布(ウエディングベール)のように。 「ノア様……?」 「保険だよ。直接触れ合わなければ、いくらセレニティだってそこまで小煩くないだろう?」 「えっ……!?」  起き上がったオトの近くに折り畳んだ長い足が着く。ギシッと木枠が音を立てた。それだけで心拍がどっと上がる。 「目、閉じて」 「っ……」  レースの上から指の甲で下顎を上げられ、熱を帯びた群青色に射抜かれる。薄い布がその熱を遮ることなどできるはずもなく、オトはおずおずと目を瞑った。 「いい子」と耳元で囁かれ、ぞくりと熱が駆け抜ける。次の瞬間、レース越しに唇が重なった。
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