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「サヨも、ありがとう。もう大丈夫だから、アタラと一緒にお帰り」
「……サヨも早く歌えるようになりたいです。そしたらオト姉様の分まで大きな声で歌います」
優しい妹分と幼馴染のような青年が手を繋いで去る姿を見送り、息を細く吐いた。疲れ切って柱に背中を寄せた彼女の耳元へ「ガァ、ガァー」という鳴き声が届く。見ると、中庭に植えられた柳の木から、一羽の鴉が飛び立った。
夢喰を彷彿とさせる黒い鳥を、島民は「不吉だ」と煙たがる。だがオトは、月下を漆黒の翼で羽ばたく影に憧憬を覚えた。
「どこにでも飛んでいける羽があって、いいな……」
セレニティから与えられた羽は、飛ぶことができない。むしろこの鳥籠に囚われる枷となって、命尽きるその時まで歌い、踊り、奏で――そうして外の世界を知らないまま、朽ちていく。
月島は神鳥が御座す神聖な島。
雛鳥は普通の人間として生きることも、空を飛ぶ鳥として生きることもできはしない。この頃のオトはそう思っていた。彼に出会うまでは――。
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