ツツジ並木の出逢い

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「きゃっ……」  ドサッ、と派手な音を立てて、ぶつかった低木から花びらがいくつか舞う。  愚図で鈍臭いと言われ続けてきたが、まさかここまでとは。ツツジの枝葉で擦った腕や汚れた袴を見られたら、また皆に笑われてしまう。アタラから逃げて、勝手に心細くなって。本当に何をしているのだろう。  じんわりと滲んだ視界を瞬きで静め、服に着いた花びらや葉を払い落とす。泣いたら敏いアタラにすぐばれる。また無意識に下唇を噛み、気丈に立ち上がろうとしたその時。ふと後ろを振り返り、信じられない光景を目の当たりにした。 「ひ、人……!?」  花が咲き乱れる低木の間に、男が倒れていた。どうやらオトがつまずいた正体は、上等な革靴に包まれた彼の足らしい。  肩回りにケープがついた黒のインバネスコートを広げて仰向けに寝転がる男は、おそらく大陸人。日の光を透き通す淡い金髪と長い手足がそれを物語る。相貌は、よくわからない。というのも、寝息を立てる彼の顔面には、手のひらより大きな一頭の夢喰(むし)が留まっていたのだ。
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