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島民や駐在する大陸人は、夢喰を恐れて絶対に外では眠らない。島に来たばかりで夢喰のことを知らないのか、もしくは持病か何かで気絶してしまったのか。
オトは雑草が生い茂る河川敷に再び膝を着いて、小声で呼びかけてみた。
「あの……」
反応はない。その代わり、黒蝶の翅がわさわさと揺れる。
夢喰採りをするにはカージュの許可が必要だ。それに、大陸人のために歌うことは基本的に禁じられている。セレニティの信者ではないからだ。だがこのまま放置してしまったら、覚めない悪夢に囚われて命を吸い尽くされてしまう。
赤煉瓦の奥で背の高い旗竿に翻る紋章旗を見上げ、オトは途方に暮れた。
「今は献上もいないのに……」
倒れた男と膝をつくオトを、悠々と花開いたツツジがちょうど隠してくれる。オトは意を決して、背負っていた風呂敷からリラを取り出した。
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