想ひ歌

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心憧(こころあくが)御霊(みたま)はゆらら  さららと消えゆ月草(つきくさ)()  相響(あいとよ)むまで、()ひ渡る……」  短い歌が終わると、夢喰(むし)がふわりと飛び立った。歌が届いたのだ。  籠は持ち歩いていない。オトが指先を差し出すと、そこにはらりと黒い影が留まる。 「お行き、なるべく遠くへ。次は籠に入れられてしまうかもしれないわ」  喉が枯れ果てた聞き苦しい声で告げる。その言葉に促されるように、指先から飛び立った黒蝶はオトの頭上を一周し、空へ羽ばたいて行った。  上手くできた、助けることができた。その事実を噛みしめながら、あらわになった男の顔を見下ろす。そして思わずほう、と感嘆の溜息をこぼした。 (綺麗なお方……)  色素の薄い金糸の髪がさらりと風に揺れる。それと同じ色をした長いまつ毛が、日の光を浴びてきらりと光った。多くの人が美しいと感じる場所へ均等に添えられた目、鼻、口。カージュにも見目麗しい者は多いが、どこか別格に思える。  瞳はどんな色なのだろう。声は、どんな風で。  そんな考えが浮かんで、慌てて(かぶり)を振る。  生きる世界が違う人に焦がれて何になると言うのだろう。そもそも、この眉目秀麗な男の瞳に醜い自分が映ることに耐えられるのか。  立ち去ろう、少しでも早く。  口をきゅっと(つぐ)んでリラを風呂敷に包んだその時。
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