想ひ歌

5/6

48人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「ゲホッ! ゲホッ! ~~~ッう゛、ぅ……!」  あまりの息苦しさに嗚咽を漏らした。  混乱する脳裏に浮かんだのは、かつて自分を囲っていた大人たち。歌う以外で声を発することを禁じられ、喉が潰れようものなら激しく罵倒された。言葉だけでなく、手を上げられることだって。  ――私たちのために、死ぬまで歌っておくれ。  平手打ちされた右頬、失った羽耳の痕から血が滴る左頬。みんながオトに「歌え」と言う。縛って、閉じ込めて、叩いて。  美しいツツジ並木の風景が暗い洞窟に宛がわれた祭壇に掻き消されそうになった時。潤んだオトの視界を大きな手が塞ぎ、背後へ力強く引き寄せられた。ふわりと鼻孔をくすぐったのは、異国の薫香。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加