壊された音

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 ――片方しかないから何だって言うんだ。  ――助けてくれたこと、礼を言う。  憐みや信仰ではない真っ直ぐな言葉をかけられたあの時。生まれて初めて、対等に見てもらえた気がした。それは相手が見ず知らずの大陸人で、オトが役立たずの半端者であることを知らないから。  もしかしたら、誰かの役に立てるかもしれない。  もしかしたら、誰かに必要としてもらえるかもしれない。  そんな淡い期待を抱いてしまっていたことに、今さら気がついた。傷つくことは慣れているはずなのに、胸が苦しくて仕方がない。三日三晩閉じ込められている間に引いてしまった喉の痛みが、今は恋しい。  底なしの悲しみへ沈溺しそうになったその時。荘厳な鐘の音がカージュに響き渡る。 「鐘楼……」  力なくオトが言う。それは雛鳥を呼び集める合図。招集の号令に逆らうことはけして許されない。  二人は鈍く感じる身体に鞭を打ち軽く身なりを整え、重い足取りで本殿へ向かった。
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