48人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
前触れのない突然の話に、どよめきが駆け抜ける。
リュクスの総領事館には、駐在する大陸人の生命を守る義務がある。彼らの命を脅かしているのは言わずもがな、夢喰だ。だが祈る神が違う大陸人のために歌うことはできない。その救済措置として、カージュから雛鳥を一羽だけ恒常的に貸し与えることが盟約されていた。それは一般的に『献上』と呼ばれる。
「ねぇ、前に献上されたあの子って……」
「とっくの昔に手籠めにされて、羽耳を切り落とされたって話よ」
「これだから大陸の野蛮人は……」
そんなまことしやかな会話がそこら中で囁かれる。
献上された雛鳥の末路は、どれも聞くに堪えない。その美しい見た目から慰み者にされて神通力を失い羽耳を切り落とされた者もいれば、叶わぬ恋を嘆いて自ら海に飛び込んだ者もいるとか。
大陸人のために日夜歌い、愛でられ、弄ばれ、死ぬ。鳥籠を出た雛鳥を待ち受けるのは、自由とは程遠い世界だ。献上されたがる者など皆無だった。しかも領事自ら選定するなど、前例がない。
最初のコメントを投稿しよう!