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すると、残された雛鳥たちが一斉に騒めき出す。
「セレニティ様の御許に不躾な大砲を向けるなんて、信じられない」
「献上なんて絶対に嫌!」
「でも雲雀様は仕方がないって……」
安寧の籠の中で飼い慣らされた雛鳥は、迫り来る恐怖に震え上がった。拭いきれない不安はやがて執拗な悪意に変わり、たった一人へ向かう。
「あんたが行きなさいよ、役立たず」
「え……?」
誰が言ったのか、集団の視線がオトの一身に集まった。
「歌えない片羽がいてもいなくても、夢喰採りに支障はないもの」
「突っ立ってるだけでも夢喰除けくらいにはなるんじゃない?」
「大陸人のために鳴いて差し上げなさいな、褥の中で」
歌を捧げることを誇りとする雛鳥にとって、歌えないオトの価値は無に等しい。自分たちに火の粉が降りかからなければ、オトや大陸人がどうなろうと知ったことではない。
身勝手な大勢に辱められる姉鳥を心配したサヨが顔を覗き込み、目を見開く。ひどく悲しんでいるだろうと思ったオトは、感情が死んだようなのっぺらな表情をしていた。
「私だって、叶うことなら選ばれたい」
その声は全ての音を静めるほど虚しく、冷たく、寂しく、その場を駆け抜ける。
傷跡がない部分がないほど傷だらけにされて、心が死んでしまったのかもしれない。サヨはオトの代わりに涙ぐんで、そっと袖を引く。小さな背中を震わせながら、静まり返った回廊を二人で逃げるように歩いた。
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