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届かぬ声
部屋まで送ってくれたサヨと別れ、メルヴィに壊されたリラと対峙した。腕木と胴が朽葉色に変色した、オトの唯一の籠入り道具と。
羽耳を持って生まれた子どもは親戚一同に祝福され、離乳が済んだらたくさんの貢ぎ物と一緒にカージュへ籠入りする。セレニティの加護を授かるのはそれだけ名誉なことなのだ。
一方、オトは誰からも祝福されることなく海の鳥居をくぐった。物心ついた時からずっと一緒にいる楽器だけを抱えて。その虚しさは筆舌に尽くしがたい。
「こんなにボロボロにされて、ごめんね……」
切られた弦が花咲くようにあちこちへ広がったリラを抱きしめる。部屋の外からは歌声や演奏が聞こえた。夜に披露する演目の練習が始まったのだ。
歌うことができず、リラも壊されて。舞台に立つこともできないのに、献上に選ばれたいと口にしてしまった。この辛いだけの世界から逃げ出したい。どんな鬼畜外道だろうと、必要としてくれるなその人のそばに行きたい。鳥籠を出たい、と。
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