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「最低だ、私……」
雛鳥は無断でカージュから出てはならない。それはセレニティへの背信行為。雛鳥たちは幼少期からそう教え込まれてきた。だから誰も外の世界に興味を示さない。「何かがおかしい」と、声を上げない。そもそもおかしいとすら思わない。そうでなければならない。植え付けられた信条が、オトを理不尽に責め立てる。
だが、ずっとここで悲嘆に暮れるわけにはいかない。否が応でも夜には領事がやって来る。せめてリラを修理しよう。浜辺の集落には工房がある。そこに行けばすぐにでも弦を張り直してくれるはずだ。
壊れたリラを持って部屋の外に出たオトだったが、一歩踏み出して身体が硬直する。文字通り、指一本動かなくなったのだ。金縛りのような妙な感覚に視線だけ動かすと、静かな廊下に梟の面が佇んでいた。
「梟、様……?」
なぜ告鳥が自分なんかのところへ。それを問う前に、梟が人差し指をくいっと動かし、背を向けて歩き出した。オトの身体は自分の意思とは関係なく、その姿を追う。
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