届かぬ声

3/5

48人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「こ、これはいったいどういうことですか? どこへ連れて行くおつもりです!?」  口まで封じられてしまう前に勇気を振り絞って問いかける。だが淡々と歩く背中が振り返ることはない。やがて廊下から中庭を抜け、物見の塔を通り過ぎる。これは今朝、オトが気力だけで歩いた道程。つまり、このまま行けば……。 「い、や……」  高床式の社殿が見え、怯えた声が漏れる。本殿と同じ朱塗りの柱に囲まれたそれは、今朝まで閉じ込められていた折檻殿だ。 「なぜ……どうしてですか……? 献上に選ばれたいと言ったから? それなら謝ります、本当に反省しています。だからもう、もう無理です、お願いします、許してください……!」  三日三晩味わった気が狂うような無音の苦痛を思い出し、心が悲鳴を上げている。思えば外に出てから水の一口も飲んでいない。すでに体力精神共に限界を迎えていた。もうあの時間は少しも耐えられない。それまでオトの意思ではぴくりともしなかった身体が震え上がる。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加