夜、来たる

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「何よ、あれ……」  一人が胡乱気な小声を上げた。  それもそのはず。夜に溶けてしまいそうなインバネスコートの裾から視線を上げると、顔の上半分を(くちばし)のついた骸骨が覆っていたのだ。コートに合わせた黒の中折れ帽を被り、口元には不遜な笑みが浮かぶ。  面妖なその男こそ、リュクスの新しい領事だった。 「カージュに(くちばし)をつけて踏み入るなんて……!」  そんな憤りがどこからともなく飛び交う。  骨の奥で影になった群青(アズライト)雪洞(ぼんぼり)の淡い明かりを反射するが、その全貌を見ることは叶わない。ただ、軽んじられている事実だけは手に取るようにわかった。無礼な男を前にして、雛鳥の心は一斉にさざ波立つ。  演目を正面で見られるよう用意した貴賓席に二人が腰を下ろした。告鳥(つげどり)たちが檜舞台へ上がり、開幕の口上が始まる。
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