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人間を悪夢に閉じ込めて生命力を吸う妖虫、夢喰。
月島にだけ生息する黒い蝶は、炎や香木の煙では追い払うことができない。祓えるのは、神鳥の加護を受けた雛鳥たちの歌声だけ。
「空蝉が行くは空の鏡
浮舟から不知火を見よ
誘おう、神鳥の有栖」
玄関先の土間に設けられた客席では、母親と二人の幼子が夢喰採りの儀を固唾を飲んで見守っていた。寝台の上で黒い蝶に覆われているのは父親だ。
夢喰採りは死の夢境から目覚めさせるための儀式。夢喰に集られている間は恐ろしい悪夢に囚われ続け、命を吸い尽くされて死に至る。
選ばれし乙女の主旋律に合わせて、周りの奏者もそれぞれの楽器を奏でながら喉の鳴管を鳴らした。神鳥に与えられた神秘的な器官から発せられる歌声には、夢喰を追い払う神通力が宿っている。
伴奏を奏でていたオトも、意を決して息を吸い込んだのだけれど――。
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