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勝手をする領事を追いかけようと立ち上がった告鳥たちの前に、それまでの経緯を黙って見ていた島主が立ち塞がる。
「退かれよ、ツキシマ殿。クレセンティアの島主たるあなたが我々を止める道理がどこにあるのです」
「私は今朝ちゃんと報せたじゃないか。雛鳥を全員集めるように、と。それを無視した挙句、先の歌姫の暴言。あの領事が国に戻って事をおおげさに吹聴したらどうなる? 桟橋に停まっているような黒船が何隻も押し寄せて来るぞ」
「…………」
押し黙った梟は、島主がどんな立場で大陸の脅威を口にしているのか思考した。純粋に島の安全を憂いて言っているのか。それとも領事の手駒にされ、この場で自分たちを引き止めるため画策しているのか。島と同じ三日月を描く口元はそれを語らない。セレニティの熱心な信者だった先代と違い、扱いにくいことこの上なかった。
「それに、あの領事は私ごときでは止められないほど愚かな男でね。今は諦めて禊を受けた方が穏便に済む。なに、後ろめたい物がなければすぐにでも威光は取り戻せる。あなた方の歌声は、神鳥様からの授かりものなのだから」
腹の中が読めない島主と、何も知らない雛鳥に挟まれた告鳥。領事を追いかける道は、すでに断たれていた。
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