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外に灯された篝火が入り口付近をゆらゆらと照らす。奥まで見通すことができない暗闇を物ともせず、領事は足を踏み入れた。
靴底で板間を踏みしめ、一歩ずつ近づいた先。事切れたように動かぬ肢体の前で片膝をつき、口元に手の甲を当てる。微かな呼吸を感じて、安堵の息を吐いた。
「やっと見つけた、俺の小鳥」
気を失ったオトを軽々と横抱きにして立ち上がる。彼女が大切に抱えていた壊れたリラも拾って。
「オト!?」
外で待機していたアタラは、領事に抱えられたオトを見て思わず駆け寄った。
血の気の引いた唇は色を失い、泣き腫らしたまぶたは石のように硬く閉ざされている。
「気を失ってるだけだ。だが酷く衰弱してる」
「っ、すぐに医師を手配する。こちらへ――」
「必要ない」
「は……? おい、待ってくれ!」
困惑したアタラがしゃんと伸びた背に向かって叫ぶ。だが彼の足は止まらない。
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