約束

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「ま、待って!」  サヨが腹の底から叫んだ。ゆっくりと振り返った領事と島主、そしてカージュ全員の視線が小さな身体に突き刺さり、足が(すく)む。だが、その恐怖すら凌駕する思いがあった。 「サヨも連れて行ってください! オト姉様は歌うのが怖いと言っていました。だから、サヨがオト姉様の分までせいいっぱいご奉仕します!」 「幼鳥の分際で何を、」 「お願いします! オト姉様のおそばにいさせてください!」  口を挟んだメルヴィに嘆願を被せ、深々と頭を下げる。  歌も、楽器も、言葉も、文字も。全部オトが教えてくれた。カージュで散々苦しめられてきたオトが大陸人の手籠めにされるのをただ見過ごすことなど、サヨにはできない。  あまりの緊張に涙が浮かび、床の木目が滲んで見えた。コツコツと靴底の音が近づいて来て、一気に身体が強張る。身のほど知らずとぶたれるのだろうか。オトに降りかかる罵倒と暴力を間近で見ていた幼い脳裏には、そんな考えが当然のように浮かぶ。 「サヨ、と言ったか?」 「は、はいっ」
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