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名を呼ばれて恐る恐る顔を上げると、オトの膝裏を抱える手から壊れたリラを渡された。
「これを持ってくれないか? 落としそうで困っていたんだ」
朽葉色のそれをおずおずと受け取り、胸に抱く。優しい声色だった。張り詰めた糸が緩んだ柔らかな頬を涙が伝う。
再び船着き場を目指して歩き出した領事の代わりに、ミツルが立ち竦む幼鳥の手を引いた。
「献上は二羽ってことでいいのかな? 異例尽くしで飽きないね、新しい領事殿は」
「島主殿は新しい物好きと聞いた。嫌いじゃないだろう、こういうのも」
「まぁ、たまにはね」
肩書で呼び合うのに妙に親し気な二人だ。そんな会話をしているうちに、さざ波が打ち寄せる音と潮の香りが漂う船着き場に着いた。桟橋の奥には、大きな蒸気船の影が浮かぶ。
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