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――囀れ、喉が裂けようと。
――鳴け、命尽きるまで。
「――ッ!」
途端におぞましい記憶が蘇り、指を違えた。吸い込んだ空気が声にならず、それどころか噎せ返ってしまう。演奏中に咳をしたオトを射殺さんばかりに睨む歌姫の眼光の鋭さも相まって、ヒュッと歪に喉が鳴った。
洗練された演奏の中では、ほんのわずかな雑音も耳障りになる。
これ以上余計な音を立てないように、歌うことを諦めて口を噤む。噛み癖がついた下唇に歯を立て、震える指で必死に弦を弾いた。
そうしているうちに神楽鈴の音が激しくなり、曲はいよいよ終盤を迎える。
「可惜夜は何処
繊月の朧に溶けて
恋しや黎明
謳へ、歌へ」
美しい高音域をどこまでも伸ばして、伸ばして、伸ばして。
その歌声に吸い寄せられた蝶たちが、寝台から一斉に飛び立つ。袖に控えていた幼鳥たちが宙を舞う漆黒を見上げ、膝の上に乗せた籠の蓋を開けた。
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