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「丸二日も寝たきりだったんだ。急に起き上がるんじゃない」
「な、なんで……!?」
無音の扉が開き、ツツジ並木で出逢った彼が外へ連れ出してくれる夢を見た。でも、あれは夢だったはず。到底叶うはずのない夢だ。
不安を隠すように鼻先まで布団を手繰り寄せて、忙しなく視線をさまよわせる。よく見れば鏡台や暖炉、上等な茶器が飾られた棚まである。夢にしては凝りすぎじゃないだろうか。
「安心しろ、現実だ」
「うそ……!」
「嘘じゃない。会いに行くって言ったじゃないか」
「あっ……」
布団の隙間から入り込んだ手に白絹の浴衣がはだけた首元をなぞられ、肩を震わせた。ひやりとした指先がチェーンに繋がれた指輪を引っかける。
「お守り、効いたろ?」
どこまでも自信に満ち溢れた微笑みを向けられ、心音が張り裂けそうなほどに高鳴った。頬に熱が集まるのを感じ、ふいっと視線を逸らす。
「お、お返しします……」
「いや、もう少し預けておく。俺の願掛けのようなものだからな」
勝手に願いの当てにされても困る。眉を寄せるオトをよそに、男は思い出したように言った。
「そう言えば名前も言ってなかったな。俺のことはノアと呼んでくれ」
「ノア?」
「ああ。君はオトだろう?」
「名前、どうして……?」
「サヨから聞いた」
「サヨ!? あの子が何で……っ、ひゃあ!?」
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