夢喰採り

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 ババババババッ!  鳥の羽音と聞き間違えそうなほどの轟音を立て、夢喰(むし)が四角い籠へ吸い込まれて行く。深淵の先まで見通せそうなほど黒々と豹変した籠の中へ最後の一匹が入るのを見届けて、蓋が閉められた。 「うぅ……」  幕が下りた舞台に低い呻き声が響く。夢喰(むし)が祓われ、十日ぶりに父親が悪夢から解放されたのだ。母親が子どもの手を引いて寝台へ駆け寄る。眠りっぱなしで衰弱しているが、伸ばした手をしっかり握り返した様子に、堪えていた涙が溢れた。 「セレニティ様の恩寵(おんちょう)に、心からの感謝を……! 雛鳥の皆様、本当にありがとうございました!」  鳴き笑う家族の様子に、オトは胸に手を当て、ほっと撫で下ろす。  だが不意に、喉を裂く剃刀(かみそり)のような視線が突き刺さった。  視線の元はわかっている。取り巻きの(おど)(どり)たちが「素晴らしい歌声だった」と(もてはや)す輪の中心。煌々(こうこう)と燃え盛る紅玉(ルビー)の瞳を吊り上げた歌姫はそれはもう恐ろしい形相で、まるで(オト)を捕食する蛇のよう。 「オトさん」 「はい……」  蚊の鳴くような返事だった。  オトはいつもそう。自信がこれっぽっちもなくて、惨めで。消えてしまいたいと思っても実行する勇気がない臆病者。その弱々しい態度が火を煽る風となり、自身に降りかかる火の粉を大きくする。 「カージュに戻ったら、わかっているわね?」 「は、い……」  これからの仕打ちを思い浮かべ、噛み締めすぎた下唇からじわりと鉄の味が広がる。  右の側頭から生えた焦げ茶色の羽耳はすっかり委縮し、しゅんと折り畳まった。
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