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いけないことをしている気がする。これはきっと純潔を尊ぶ雛鳥に灯ってはならない熱だ。なのに抵抗できないのはどうしてだろう。
さらに追い討ちをかけるのは「美しい」「綺麗だ」「素晴らしい」などの、止まない賛辞。オトにぶつけられた侮辱を全て塗り替えるように、ひっきりなしに囁かれる。そんなことないと否定したいのに、口を開けば自分のものとは思えない甘ったるい声が次々と上がった。
「も、だめっ……!」
視界がチカチカしてきて、何かが爆ぜそうな感覚が込み上げる。ノアの胸を押して身じろぎした、その時……。
「あーーッ! 領事様がオト姉様をテゴメにしてるーーーッ!!」
よく通る甲高い声が、音量を落とさずどこまでも伸びていく。聞き馴染んだその声にハッとオトの意識が戻った次の瞬間、恍惚とルーペを向けていた男が、突然後ろへ引っ張られた。
「病み上がりの淑女相手にはしたないですわ。恥を知りなさい」
水面を透き通すような清廉とした声色に反して、強烈な背負い投げが炸裂する。突如現れたその人は、踵が尖った靴で絨毯に穴を空けるほど踏ん張り、美しい放物線を描きながらノアを放り投げた。
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