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「オト姉様! 純潔はご無事ですか!?」
サヨが勢いよくベッドに飛び乗った。涙目になる少女を受け止め、オトはわけもわからぬまま小さく頷く。たぶん、大丈夫なはず。あのまま熱が爆ぜていたらどうなっていたかわからないけれど。
「サヨ、どうしてあなたまで……それにここはどこなの?」
困惑する様子を見て、ハンナが元凶へ絶対零度の視線を送る。
「ノア様、もしや雛鳥様に何もご説明しておりませんの?」
「羽耳の神秘を前に説明なんてしてる場合か?」
「クズ……あっ、失礼。まるで倫理観が死んだ猿でございますね」
「それ言い直す意味あったか?」
丁寧に罵倒する秘書官を半目で睨む領事。一見破綻した力関係に見えるが、根底には親しさに似た感情も見え隠れしている。
仲が良いのか悪いのか分からない二人が睨み合う中、姉鳥の首に幼鳥がひしと抱きつく。
「ここは本島の総領事館です。オト姉様は、献上に選ばれました」
「献上……!? じゃあ、やっぱりこの人が……」
小柄な背中越しに、恐る恐るノアを――リュクスの領事を見上げる。
オトの視線に気づいた領事は、ハンナを睨んでいた瞳を柔和に細めて彫刻顔に微笑みを浮かべた。
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