導き星

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導き星

「少し外の風を浴びないか?」  あまりに怯える様子を見かねて、ノアがそんな提案をしてきた。だが起き抜けに覆いかぶさってきた男だ。当然オトは警戒する。 「オト様、ご安心ください。もしこの野蛮な猿が不埒なことをしたら、掌底で鼻を砕きますので」 「その時はサヨも領事様の枕元で呪詛を唱えてもいいですか!?」 「ええ、もちろん!」 「…………」  物騒な美人秘書官と末恐ろしい幼鳥がキャッキャと手を取り合う。野蛮な猿と言われた領事がしゅっとした鼻を青い顔でさすった。  渋々了承したオトに羽織を着せたが、血の気の引いた顔は見ているだけで肌寒い。ノアは自分のコートを上から被せ、さらに襟巻(ストール)を巻く。いくら重ねようと着膨れしない薄い肩を抱き、そそくさと連れ出した。  廊下でさえ赤い絨毯を隙間なく敷き詰めた煌びやかな空間だが、階段の奥までしんと静まり返っている。 「ここは来賓用の区画だ。一般の職員は用事がない限り立ち寄らない。今歩いて来た道と反対側に行けば本館だ。具合が良くなったら自由に出歩いてみるといい」 「自由に……?」 「街へ行ってもいいが、雛鳥は本島でも目立つ。よからぬ思想の輩に目を付けられるかもしれない。留守にする時はハンナを置いて行くから、必ず彼女に付き添ってもらうように。見ての通り恐ろしく腕の立つゴリラだからな。欲しい物があれば領事館宛に領収書を――」 「ま、待ってください」  予想だにしなかったことが連なり、オトが足を止める。
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