導き星

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「きれい……」 「蝋燭の淡い明かりも美しいが、文明の輝きも悪くないだろう?」 「はい。でも、大陸の皆さんは夜も働いているのですか?」  照明が惜しみなく注がれる埠頭に、大きな商船が接岸しようとしている。忙しなく動き回る小さな光は手持ち角灯(ランタン)だろうか。 「西の港は唯一の玄関口だからな。昼夜問わず稼働している」 「大変ですね」 「貿易商(彼ら)にとっては嬉しい悲鳴だろう。それに、クレセンティアの生活水準を高め産業基盤を整えるのは急務でもある」 「それは、えっと……」  生活水準、産業基盤。話が分からなくなってきて言葉に詰まった。無知を憂いて羽耳がしゅんと折り畳まる。  そんなオトを笑うことなく、ノアは穏やかな口調で続けた。 「クレセンティアはこれから本格的に開国を始める。これは島主殿きっての意向だ」 「開国……」 「文明の時が止まったままの秘境ではなく、大陸列強の国々と横並びになって世界へ参画していくということだ。そのために唯一の交易国であるリュクスが技術面や物資で支援をしている」 「だから大陸人の方がたくさんいらしてるんですね」 「ああ。クレセンティアを支援する大陸人の命を守るのが総領事館の仕事だ。それは巡り廻って島を守ることにも繋がる」  誇らしげに語る横顔を見つめていると、どうしてか胸が高鳴った。だが輝かしいものに触れるたび、自分の醜さを思い知る。大陸人が島のために働いていることを知ったからなおのこと、オトには打ち明けなければならない欠陥があった。
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