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歌が紡ぐはただ二人
「領事様、あの……」
歌えないことを、ちゃんと伝えなければ。人の命に関わることだから、きっと早い方がいい。何かが起きてからでは手遅れになってしまう。
寒さとは違う理由で震える唇を開いて言葉を紡ごうとした時。不意にノアの手が羽耳に触れた。探求心に煽られた不躾なものではなく、慈しむような手つきで。
「鳴官に古傷があるとサヨから聞いた。君が本当は歌えないことも、カージュでどんな風に生きていたのかも、全部」
「っ……!?」
最も気に病んでいたことを指摘され、一気に身体が強張る。
神通力を宿す喉の器官である鳴官は、雛鳥たちの神聖な歌声の生命線と言って良い。そこに爆弾を抱えているオトが歌うと掠れた声しか出せず、喉は潰れ、胃の中を全部ひっくり返したような咳が出る。セレニティの雛鳥にあるまじき醜態だ。だから同じ羽耳を持つ仲間たちはオトを疎んじた。
「なら、わかるでしょう……? 私では献上のお役目を果たせません。皆さんのご迷惑になってしまいます」
自分で役立たずだと言って、虚しくなる。
悪意に晒されて「献上に選ばれたい」と口を衝いたのは、ただの弱音だ。残酷な鳥籠から逃げ出したかっただけ。今思えばあらゆる人に失礼だった。できもしないことを無責任に口にして、自己嫌悪に苛まれる。
滲みだした視界を足元へ伏せる。こんな惨めで情けない雛鳥では、大陸人の命を守る事などできない。
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