48人が本棚に入れています
本棚に追加
「海や言語を越えて、この歌が君へと導いてくれた。俺はきっと、オトと出逢うためにこの島へ来たんだ」
肩をぐいと引き寄せられ、腕の中に閉じ込められた。薄いシャツの胸元にぴとりとくっついた羽耳には、少し速い心音が響く。取り繕った建前ではなく、誠実な本音であることがオトにもわかった。
「美しく有能なだけの雛鳥ではなく、誰かを想って歌えるオトの優しさが大陸人には必要だ。歌うことを強制したりはしない。ただ、傍にいてほしい」
真っ直ぐな言葉の一つ一つが傷口に染みわたる。虐げられてばかりだった不出来な片羽には過ぎた愛情だ。込み上げるものを必死に堪えようとするが、溢れる涙が止められない。数え切れないほど流した恐怖や悲しみの涙とは違う。胸の裡に広がるのは初めて安寧を知った喜びと、安堵だけ。
――誰か、鳥籠の外へ連れ出してくれないだろうか。
心のどこかで、来るはずのない誰かを昼も夜も待ち続けていた。鴉に憧れ、海を見つめ、船に焦がれ。
今思うと、あの歌は自分のことを歌っていたのではないだろうか。
![d987a097-5a33-484c-bf65-caaeeb901b6a](https://img.estar.jp/public/user_upload/d987a097-5a33-484c-bf65-caaeeb901b6a.jpg?width=800&format=jpg)
最初のコメントを投稿しよう!