歌が紡ぐはただ二人

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「海や言語を越えて、この歌が君へと導いてくれた。俺はきっと、オトと出逢うためにこの島へ来たんだ」  肩をぐいと引き寄せられ、腕の中に閉じ込められた。薄いシャツの胸元にぴとりとくっついた羽耳には、少し速い心音が響く。取り繕った建前ではなく、誠実な本音であることがオトにもわかった。 「美しく有能なだけの雛鳥ではなく、誰かを想って歌えるオトの優しさが大陸人(俺たち)には必要だ。歌うことを強制したりはしない。ただ、傍にいてほしい」  真っ直ぐな言葉の一つ一つが傷口に染みわたる。虐げられてばかりだった不出来な片羽には過ぎた愛情だ。込み上げるものを必死に堪えようとするが、溢れる涙が止められない。数え切れないほど流した恐怖や悲しみの涙とは違う。胸の(うち)に広がるのは初めて安寧を知った喜びと、安堵だけ。  ――誰か、鳥籠の外へ連れ出してくれないだろうか。  心のどこかで、来るはずのない誰かを昼も夜も待ち続けていた。鴉に憧れ、海を見つめ、船に焦がれ。  今思うと、あの歌は自分のことを歌っていたのではないだろうか。 d987a097-5a33-484c-bf65-caaeeb901b6a
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