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黎明の空の下
結局、オトはまともな返事をすることができなかった。素直に頷けば無条件で幸せになれると理解しても、自分の無力さを知っているからこそ、簡単には頷けない。そんな風にうじうじと思い悩むオトを、ノアは一切責めなかった。その代わり……。
『お出かけ……?』
『ああ。君に大陸人のことをもっと知ってほしいんだ』
翌朝。
オトの姿は、総領事館の正面玄関に広がる庭園にあった。
早朝から出かけることになったとサヨに告げると「でぇとですか!?」と興奮気味に飛び跳ねていたが、そういうことではないと思う。
見事に手入れされた美しい庭園のすみっこで、消えかけの曙と青が入り混じった空を見上げる。六時を告げる喇叭の音に、羽耳がぴくりと立った。
(……そう言えば、アタラはどうしてるかしら)
目が覚めてからようやくほっと一息を吐いた瞬間、彼の顔が思い浮かぶ。結局きちんと謝罪もできていない。
――かどわたりするときはいっしょにとぼうね。やくそくだよ。
カージュに来てから泣いてばかりだった幼いオトに、アタラがくれた生き抜くための希望。いつだって彼に助けられてばかりだったのに、こんな形で離ればなれになってしまうなんて。
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