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心細さを覚えて丸まった肩にコートがかけられた。昨日と同じ麝香の深く甘い香りに包まれ、驚いて背後を見上げる。
「すまない、待たせてしまった」
朝の日差しに負けず爽やかに自発光するノア。
灰色の胴着に品よく合わせた裾の長い背広がとてもよく似合っていた。港の露店に出回る大陸の本の挿絵からそのまま飛び出してきたような造形美だ。
片や、オトと言えば……。
「着物と羽織を届けさせたはずだが、気に入らなかったか?」
カージュから連れ出した時と同じ地味な藍染の袴姿を見て、ノアの目が細まる。
たしかに、朝一番でハンナに連れられた別室には、アタラと行った呉服屋と見紛うほどの上等な着物が列を成していた。衣桁に掛けられた艶やかな行列に呆然としながら「前の献上が使っていたものですか?」と問うと「全てノア様が新たに手配されたものです」と返され、あまりの恐れ多さに縮み上がったのだった。
「私なんかが袖を通すには、もったいない代物ばかりだったので……」
「君のための用意したのに、もったいないなんてことがあるものか」
すかさずそう言われて、オトは返答に困ってしまう。
あまりにみすぼらしい格好をしているせいで、気を遣わせてしまったのだろうか。領事であるノアは言わば友好国の公人。繕いだらけのボロ布のような格好は、却って彼に恥をかかせてしまっているのかもしれない。
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