黎明の空の下

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「着物が気に入らないなら大陸のドレスも何着かあるぞ? あとで用意させよう」 「ほ、本当に結構です。次から気をつけます」 「気をつけるって、何を?」 「えっと……み、身だしなみを……?」 「よし、じゃあ次の公休日に仕立て屋を呼ぼうか。俺も一緒に選びたい」 「いえ、それは、あの……」 「困ります」と消え入りそうな声で言うものだから、思わずノアは後方に控えていたハンナに視線を送った。「女性の意思確認もせず服を贈るだなんて、最高に痛い野郎ですわ」と念を押されていたからだ。ほれ見たことかと物凄いジト目で見てくる。  優秀な秘書官は助け舟のつもりで、仕方なくわざとらしい咳ばらいをした。 「コホン……お二人とも、そろそろ行きませんと。朝の荷下ろしが終わってしまいます」 「荷下ろし?」 「まずは港を案内しようと思って。大陸の蒸気船、近くで見たことないだろ?」 「蒸気船……!」  不安でいっぱいだった声色がわずかに上がる。隠し切れない期待と高揚感に、ノアは清涼な瞳を見開いた後、柔和に微笑んだ。 「正面の階段を真っ直ぐ下りれば港だ。では行こうか、オト」  手のひらを上に差し出す。どうしていいのか戸惑う寄る瀬のない手を、自分の右腕に優しく引き寄せた。
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