海の原を越えて

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「さぁ、ついたぞ」  そう言われて顔を上げた先に広がったのは、埠頭を覆い尽くさんばかりの人、そして物。  背中まである大きな襟付の制服を着た船員たちが、帆を畳んだ立派な船から次々と荷を降ろしている。彼らから荷を受け取っているのは行商人だ。手元の資料と睨めっこしながら、運ばれてきた品物を検品している。 「クレセンティアに入島できる一般人は、主に彼らのような船乗りと行商人、あとはインフラ関係の専門家くらいだ。居住権が認可されていないから、総領事館は滞在中の宿も兼ねている。そのうちすれ違うこともあるだろう。彼らの滞在中の補助をするのが総領事館(俺たち)の主な仕事だ」  賑やかな港を歩きながら誇らしげに説明してくれる端正な横顔を見つめ、小さく相槌を打つ。ノアと一緒に歩いているからか、カージュで毎日注がれていた蔑視は感じなかった。むしろ二人の姿を見つけては満面の笑みで手を振ってくる。 「皆さんはどうしてあんなに嬉しそうなのですか?」 「献上の席が空いてしばらく経つからな。君の姿を見て、ようやく安眠できるとほっとしているんだろう」 「前の献上は……」 「カージュで何と聞いていた?」 「……大陸人に純潔を奪われて、神通力を失ったと」 「そうか……詳しいことはまた後で説明しよう」  意味深に話を切られた。  大陸人は下賤で野蛮。見目麗しい者なら人間でも雛鳥でもお構いなし。そんな風にカージュで飛び交っていた話と実際に見た光景は、何か食い違っている気がする。  胸をざわつかせた疑念を抱えたまましばらく歩いていると、ついに目的の場所へ辿り着いた。
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