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遠花火
「大丈夫、なるようになるから」
記憶の彼方で、君の声がした。
自分には、もう何も残っていない。
家族も仕事も、何もかも。
会社が破綻してから、人生が壊れた。
こんなはずじゃ、なかった。
失ったものは、もう取り戻せないって、分かっているのに。
憂さ晴らしに公園に寄ったのに、どうしちゃったんだろう。
自分のことを嘲笑い、ベンチに腰掛ける。
寒いなあ、辛いなあ。取り留めのないことばかりを考える。
今でも思い出す、あの健気な笑顔を。
雪の中で見つけた、小さな宝物。
そしてその横で、雪に寝転がる無邪気な君。
ふと、砂場の向こうに四角い箱を見つける。
ゆっくり焦点を合わせてそれを見やると、胸から何かが抜けたような感覚がした。
段ボール箱に入った、子犬。
雑種かな。
こんなに寒いのに、大丈夫なのだろうか。
可愛いけど、家ではちょっと飼えないな…。
ご飯を満足に食べさせてあげられるかも、確証がない。
保健所とかに連れてけばいいか。
いや、その前に誰かが拾うか。
幸せにしてもらいなよ、ちゃんと。
でも困ったなぁ、あの時と同じじゃないか。
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