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群青色のペンキを塗り伸ばしたような空に白灰色の雲が浮かぶ。
少し絵心のついた幼子が空を描いたらこんな風になるであろう、はっきりとしたコントラストである。
海猫がニャアニャアと鳴くなか、一隻の高速船が飛沫を激しく立て海上を疾走し、海面に白いスジを残している。
船内の窓から二人組の男女が景色を眺めていた。
「なんか映画のシーンを切り取ったような光景ですね」
「ほう、そんな感性を持ってるんだな、意外にロマンチストじゃないか」
「いえ、いかにも過ぎて噓っぽい景色だなって、そら寒いというか」
自身の感想に対しての返答に女性が答えた。
窓際の座席に姿勢よく腰かけた女性は、首だけを窓に向けそう答えると、肩甲骨の辺りまで伸ばした黒髪を右手で耳にかける。髪が耳に被さるのが嫌な訳ではなく、そういう癖らしい。
生真面目そうな感情表現の乏しい顔相は、飾り気のない金属フレームの眼鏡とエッジが利き過ぎていない程良く尖った顎のラインも手伝って、おいそれと話しかけられない雰囲気を醸し出していた。
隣の男はそんな彼女のそっけなさに慣れているのか”なるほどね”とだけ呟く。
中肉中背、黒に近い濃紺のスーツに細い線が斜めに走った紺のネクタイ、髪をふんわりと柔らかい七三にしている。隣の女性と比較すると表情にも剣がなく穏やかそうな印象を受ける。
心得のあるものであれば、顔に似合わず筋肉質なのが見て取れるだろう。
「そろそろ着く頃かな?」
男は時折激しく上下する船内にずっと居心地の悪さを感じていたので、期待も込めての発言だった。
「そうですね」
女性がスマホの画面を覗きながら答えた。どうやら何かの情報サイトを閲覧しているようだ。
ほどなくして船は目的地に着いた。
神降島は東京都の島で、東京から高速船に乗って三時間程の神津島の東にある島である。
大きさは最も小さいと言われる式根島とほぼ同等だが、人口密度は島々の中でもっとも少なく。人口は百人程度。
島の最西にはシンボル的な山があり、そこからなだらか傾斜を描き島民が住む平地になっているので、全体的みるとハンチング帽のような形をしている。
住民の殆どは漁業を生業としており特に観光に力を注いでいるわけでもないが、界隈では度々話題になっていた。
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