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その理由として挙げられるのが島に住む猫の存在である。百人程度の人間に対して猫の数は数百匹も生息しているという。
理由のほどは定かではないが、とにかく神降島は猫好きの間では有名であった。
「さて、まずは島の役所にでも行ってみるか」
靴の裏を消毒し下船した後、縮こまった筋肉を解放するように伸びをしながら坂上が話しかける。
「そうですね、今日はあまり時間が取れそうもないですし」
それに対して相田が髪を掻き上げながら事務的に答えた。視線は自分達を取り囲むように群れる猫に向けられている。
都会の雑踏を思い起こすほどの猫の数。その程んどはよく見る和猫の雑種のようであった。
「猫の島ですね、ほんと」
これだけの猫をみても相田の態度は変わらない。終いには”ミャン、ミャン”と少し変わった鳴き声をする猫をみて。
「変な鳴き声」
と眉間に皴をよせる。
「俺は猫好きだから、結構楽しみにしてたんだよな。見渡す限り猫の群れ、たまんないなぁ」
一方で、坂上はしゃがみ込み雉虎の顎を撫で目尻を下げていた。既に周りは猫だらけになっていた。
「時間がないって言いましたよね」
坂上達が神降島に着いたのは十三時半、他に時間帯に着く便はなくこの一本のみである。加えて三日に一本しか航行しないので、観光客も訪れ難かった。
「その前に」
そういうと坂上は目の前を歩く若者に向かっていく。
「お兄さん、ちょっとイイかな?」
やけに慣れた調子で声を掛ける。
「えっ?いいけど何?」
若者は眉間に少しばかりの谷間を作って返事をした。右手に持った自撮り棒に設置してあるスマホは録画中になっているので、取り込み中だったのだろう。
年季の入った大き目のリュックにウエストポーチ、黄緑のキャップを被り白のポロシャツを着ている。
「ごめんね。俺達こういうもんなんだけど」
坂上が上着の内ポケットから黒い手帳を取り出す。
「えっ警察?何?」
若者はうって変わって狼狽した。TVドラマと違い制服を着ていない刑事に話しかけられる機会など滅多にはない、本物の警察手帳を見せられ声を掛けられる、普通はそれだけで緊張するものである。
「あ~大丈夫、ちょっと聞きたいだけだから」
若者の緊張を和らげるように笑みを浮かべ、詰問にならないよう気をつけながら質問をする。
「ここへ来たのは仕事か何か?」
「仕事っちゃ仕事かな?4チューブの撮影だし」
「あっそう、じゃあ君は4チューバーか、有名なの」
「いや~まだ始めたばかりだから登録者数三万人位かな」
「へ~始めたばかりで三万人って凄いね、チャンネル名教えてよ」
「えっ刑事さん、4チューブとか観るの?」
「観る観る、何ならTVよりみるよ」
坂上は何気ない会話をリズムよく続けることで、若者の警戒心と緊張をすっかり解いてしまった。
(ああいうのは私には出来ない、見習ったほうが良いんだろうけど…)
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