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まだ巡査の相田は先輩である坂上の捜査法を肌で学んでいる途中だった。
警部補である坂上の威圧感の無さのせいで、自身の緊張感を解いた態度を取ってしまいがちなのだが、今のような声かけ一つとっても遠く及ばないと思わざる負えない。
そんな風に相田が自戒している間に坂上が戻ってきた。
「事件のことは何も知らないみたいだ、有名な猫の集会所を目当てに来たみたいだな」
「それならさっき船内で観ました」
神降島名物猫の集会所。
村の裏手にある大きな鍾乳洞に島の猫が集合している様のことである。そこは一年を通して気温が安定しているので、島の殆どの猫がねぐらにしているらしく、時間のタイミングが合えば何百匹という見渡す限りの猫の群れが見られるという。
相田は船内で神降島を調べている最中、その画像を見つけていた。
「確かに圧巻の景色でした」
「そっか時間があったら俺もみたいな」
名残惜しそうな表情で歩を進める。
ニ十分後、二人は村の集会所に居た。
集会所はこの村にとって市役所のような役割をしており、決め事や月に何回か派遣される医師の診察が行われる。因みに村には宿泊施設がないので、観光客はこの集会所の広間で布団を敷いて雑魚寝するしかない。
聞き込みに来たこの場所は同時に二人の宿泊場所でもある。勿論先ほどの若者も同室である。
「本土の刑事さんが何の用?」
対応した柿原という男は、純粋に何のことか聞き返したようだった。年齢は恐らく四十代、足元には何匹もの猫が”ミョアミョア”鳴きながら、餌のおねだりをしている。
「宿泊名簿を見せて欲しいんだけど」
「宿泊名簿ってほどのもんでもないけどね」
そう言いながら差し出し出されたのは青い表紙の大学ノート。
坂上はそれを受け取りパラパラとページをめくる、ボールペンで乱雑に書かれてはいるが日付と宿泊者の名はしっかり記入されていた。
「相田」
「はい」
相田が手帳を取り出す。
「去年の九月から川崎恵」
「十一月 横山貞治、木田智也、一月 真田春奈 四月 山谷孝太郎 六月 宝田昭義 楢崎唯奈 三島葵 」
次々と名前を挙げていくと、坂上はページをめくりその名を探しチェックをしていく。
「全員ここに泊ってるな」
「この人達に見覚えはありますか?」
相田は今挙げられたであろう人物達の画像をみせるが、柿原は首をかしげるばかりだった。
「いや~俺はお客が来た時に名前を確認したら、それっきり帰るまで会わないからね。詳しく顔まで覚えてないな」
その声からは何かを隠している音は聞こえない。
「植松さん家のばーさんなら、もしかすると分かるかもだけど、歳食ってるからな~どうだろう?」
聞けば宿泊者の食事は集会所から五分ほどの距離にある、植松家で作ってるらしい。プラスチックの四角い弁当箱に料理を詰めて、そこの主人である植松のぶが直接集会所に運ぶ。
柿原に礼を言い二人は植松のぶの家へと向かう。
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