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鍾乳洞の中は二人が並んで歩けるほどの高さと幅があり、両サイドには等間隔で小さめの石灯籠が置かれ中を照らしていた。
奥の方から涼風が吹いてくる。
少し先で道が曲がっているので奥の様子は確認できないが、明りの心配はなさそうだった。
二人は慎重に歩を進める。壁になっている岩肌から染み出た水で一歩踏み出すごとにピチャリという音が鳴る。
最初の角を曲がった際に坂本が足元に落ちている”何か”を見つけた。
「うわっ…」
相田が小さく声を漏らす。
落ちていたのはスマホが先端に設置された自撮り棒と第二関節から切断された一本の指。
二人は見覚えがある自撮り棒から、ある人物を連想した。入島以来見かけてない4チューバーの若者。
「…しかし、洞窟の入り口に指が落ちてるなんて、わざとらしいですね」
相田は無表情だったが、微かな怯えが坂上には伝わっていた。
「俺もそう思うよ」
いざとなったら相田だけでも逃がそうと坂上は心に決めた。
鍾乳洞に入って数分、六つ目の角を曲がった先に大きな空間が広がっていた。
サッカーコート一面分にも匹敵する広さに、凸凹とした岩と悠久の時を感じさせる大きな鍾乳石の柱と垂れ下がる氷柱、見る人を圧倒する幻想的な風景。
二人は思わず感嘆の声をあげた。
見た瞬間に誰でも分かるが、そこには何百ともしれない猫が思い思いに寝そべり、駆け回り、お互いの体を舐めあったりしている。
ニャガニャガ、ミャンミャン、ミギャミギャと洞窟内で反響する鳴き声の大きさに、二人が眉をしかめた直後。
「いっぎゃああああああああああ」
人生で今まで聞いたことのないような絶叫が相田の口から発せられた。
驚いて坂上が振り向いたときには、相田は口から泡を吹き地面に横たわっていた。
「おいっ相田っどうしたっ」
坂本はしゃがみ込むと直ぐに相田の口元に手を当て、次に胸の鼓動を確かめる。
(良かった、息はある…しかし)
何が何だかわからない、周りには人の気配もない、一体何が起こっているのかと相田の横にしゃがんだまま警戒をしてると、一匹の猫が坂本の腕にじゃれついてきた。
ニャガアァ。
「ごめんな、今ちょっとそれどころじゃっ…」
いきなり猫が坂本の腕に”嚙みついた”、刹那、尋常ではない激痛が身体を貫く。
「うがっあああああああいいいい」
その痛みは意識を刈り取ってしまうほどの衝撃を与え、坂上は泡を吹いて倒れこんでしまった。
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