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「うぉぉぉ」って雄叫びを上げ、クソ重てぇピーカロを抱えてコーナーポスト最上段に昇ったんだと。
んで、省吾に言うには俺がピーカロに「まさか、逃げるような塩ょっぱい真似はしねぇよな?」って囁いたらしい。それを聞いてヤツは『こいつ、本物の猛犬野郎だ』って、ゾッとしたそうだ。
そして俺はピーカロの巨体を腕ごとがっちり締め付けてコーナートップからジャンプ一番飛び上がり、そのまま真っ逆さまにマット目掛けて落下したんだ。それも一切の受け身が取れない『脳天』からだ。
馬鹿だよな。2人分の体重でもって、3メートル近い高さから飛んで頭からマットに2人で突き刺さるんだぜ? 究極の石頭勝負……それが俺の奥義『心中ドライバー』だ。
当たり前だが、着地と同時に二人ともマットに大の字さ。そりゃそうだろうよ。
レフェリーが『ダブルノックアウト』のカウントを数え始める。と、同時に俺の右手が少しだけ動いてピーカロの腹に触ったんだと。
それをレフェリーが見逃さず、『1! 2! 3!』でゴング要請。あえてマットを叩かなかったてよ。マットを叩く振動でピーカロが無意識に肩を上げるかも知れないから。
だからまぁなんだ。
試合は俺の勝ちだよ。マットに寝転んだまま片手だけ上げて貰ったらしい。んで、若手に両肩を支えてもらいながらフラフラ歩いて花道を下がったってさ。まるで、敗者みたいに。
方やピーカロのヤツぁよ。
暫くリング下で蹲って痛みを堪えたあとに、誰の手も借りず一人で歩いて控室に下がったらしい。
ヤツにも意地があったんだろうな。『カマセにされてたまるか』っていう。
「ん……? 何で俺がここにいるんだ?」
俺が意識を取り戻したのは、控室でドクターの診察を受けているときだった。
「試合が終わったからだよ」
ドクターは「また記憶が飛んだのか」と呆れ顔だった。
「そうか、終わったのか」
とりあえず、身体中痣だらけなのは確かだが。
「で、どっちが勝ったんだ?」
「アンタだよ、真鷹。だがアンタが2人掛かりで担がれたのに対して、ピーカロは自力で歩いて帰ってきた」
「……ヤな野郎だな」
何だか負けた気がしてムカつくが。
「で……」
ドクターが俺の瞳にペンライトの光を当てている。
「ピーカロは『カウント3』だっだが、アンタは『カウント2週間』だ。絶対安静だから間違ってもベッドから肩を上げるなよ」
……マジかよ。
「さっき、客席の声が聞こえてきてさ」
ドクターが聴診器を耳から外す。
「『あんなド派手な技を食らって自力で歩けるなんてピーカロは化け物だな』って」
はは……またしても俺は『カマセ犬』だったかよ。
「『けどそれでも勝つ真鷹はもっと凄ぇ』ってさ」
「ふん」
そうか、悪くはないな。記録で勝利して、その上で相手の強さを引き立てる……最高の『カマセ』ができたじゃあないか。
ふと、肩から妙な気負いが抜ける気がした。
完
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