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気弱そうな彼の横顔を見ながら確信する。きっとこのまま採用されるだろう。手に持った履歴書にマスターは一度も目を向けていない。それはそうだ。だって彼に佐渡さんが見えることを、私達は知ってしまったから。私と同じキッカケ、理由で、彼は次の私になる。
「ちょっといいかな」
「はい」
「右奥の、パーテーションに区切られている席は常連さんの固定席なの。他のお客様はご案内しないでね」
「えっと……さっきの、長い黒髪の女性の方、ですか?」
「うん。──その人ね、佐渡さんっていうの。覚えてね」
緩やかに口角を持ち上げた私を、マスターは穏やかな顔で見つめていた。
──私は今日も化かされたフリをする。いつか彼の目が醒めてしまっても、この魔法だけは解かれてはいけない。
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