2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
律希
「ひーちゃん、久しぶり」
震えそうな声を抑えて言った。
心臓がうるさい。
「…クソやろう」
ゆっくり振り返ったひーちゃんは、歪んだ顔でぶっきらぼうに返す。
「いや、第一声がそれって!」
酷ない?!と声を上げて笑った。
あぁ、ひーちゃんだ。
最期に思い描いたのは可愛い笑顔だったけど。
「お前なんか…!」
11月に入ったのに暖冬らしい。
大学の中庭に植えられたコキアは、一部茶色くなって来たが、まだまだ赤いままだ。
あの日、橋から見た夕焼けに似た色。
ひーちゃんが俯いた。
流れた髪が顔を隠すけど、隠し切れない涙が地面を水玉模様にする。
「え?嘘やろ?!泣いてんの?!オレとの再会がそんな嬉しかったん?!」
オレって罪な男やなぁ~
本音を笑って誤魔化すのは昔からの癖。
隠し通すつもりだったから、最期まで気付かなかったのはひーちゃんのせいじゃ無い。
俺は俺であって、もう前の俺じゃないけれど。
「しゃーないやん?絶対嫌やったんやもん」
もん、なんてふざけて言ったところで、怒られるのは分かってる。
「もう1回死んで来い!」
ほら、やっぱり。
でも、全部分かってやったのも、ひーちゃんなら分かってるでしょ?
「いや、もう1回死んだら流石に帰って来れん気ぃするわ」
ええん?と眉を下げて聞く。
さながら、大型犬だ。
「…良くない、けど…やっぱり嫌だ」
「嫌や嫌やって、ひーちゃん、駄々っ子みたいやなぁ」
酷いことしたのは俺の方。
駄々っ子を通したのも俺の方。
俺は弱いから逃げ出したかった。
でも、絶対にひーちゃんは道連れにしたくなくて。
陽彩でひいろ。ひーちゃん。
初めて会った日から、変わらないあだ名。
俺が呼んだら、嬉しそうなのを誤魔化してるのが可愛くて。
でも、変わってしまった目線の高さと聞き慣れない音が、ひーちゃんを悲しませてる。
最初のコメントを投稿しよう!