律希

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律希

「ひーちゃん、久しぶり」 震えそうな声を抑えて言った。 心臓がうるさい。 「…クソやろう」 ゆっくり振り返ったひーちゃんは、歪んだ顔でぶっきらぼうに返す。 「いや、第一声がそれって!」 酷ない?!と声を上げて笑った。 あぁ、ひーちゃんだ。 最期に思い描いたのは可愛い笑顔だったけど。 「お前なんか…!」 11月に入ったのに暖冬らしい。 大学の中庭に植えられたコキアは、一部茶色くなって来たが、まだまだ赤いままだ。 あの日、橋から見た夕焼けに似た色。 ひーちゃんが俯いた。 流れた髪が顔を隠すけど、隠し切れない涙が地面を水玉模様にする。 「え?嘘やろ?!泣いてんの?!オレとの再会がそんな嬉しかったん?!」 オレって罪な男やなぁ~ 本音を笑って誤魔化すのは昔からの癖。 隠し通すつもりだったから、最期まで気付かなかったのはひーちゃんのせいじゃ無い。 俺は俺であって、もう前の俺じゃないけれど。 「しゃーないやん?絶対嫌やったんやもん」 もん、なんてふざけて言ったところで、怒られるのは分かってる。 「もう1回死んで来い!」 ほら、やっぱり。 でも、全部分かってやったのも、ひーちゃんなら分かってるでしょ? 「いや、もう1回死んだら流石に帰って来れん気ぃするわ」 ええん?と眉を下げて聞く。 さながら、大型犬だ。 「…良くない、けど…やっぱり嫌だ」 「嫌や嫌やって、ひーちゃん、駄々っ子みたいやなぁ」 酷いことしたのは俺の方。 駄々っ子を通したのも俺の方。 俺は弱いから逃げ出したかった。 でも、絶対にひーちゃんは道連れにしたくなくて。 陽彩でひいろ。ひーちゃん。 初めて会った日から、変わらないあだ名。 俺が呼んだら、嬉しそうなのを誤魔化してるのが可愛くて。 でも、変わってしまった目線の高さと聞き慣れない音が、ひーちゃんを悲しませてる。
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